holly1958’s diary

小説の感想とか。読む本がなくなったらどうぞ。

リトル・シスター(かわいい女)を読んで

 うーむ、というのが読後すぐの感想である。訳者あとがきで、村上春樹氏が述べていたように、ミステリ小説としてはプロットに穴がありすぎるように思える。(あえてここで述べるようなことはしないが)

物語は二度三度とその様相を変えるので、驚きはあるものの、あまりに突飛な展開であるため、同にも腑に落ちないところがあり、ミステリにとって肝である、誰がどんな理由で殺人を犯したのかという部分がどうも曖昧になっている。

ここまで書くとこの本がまるで悪書であるかのような印象を持たれると思うが、そんなことは一切なく、ここからはその点について書きたいと思う。

 

リトル・シスターの魅力

 

それは正しい方向への一歩だった。でも踏み出し方が足りなかった。私はドアをロックし、机の下に隠れるべきだったのだ。

引用元:リトル・シスター:村上春樹

 

簡潔に言えば、ジョークとシニカルな会話が効いたいわゆるチャンドラー節と、人間味溢れる登場人物たちであろう。

 

少しばかり話は変わるが、リトル・シスターにはかわいい女という邦題がつけられていることで、リトル・シスター(つまり妹)イコールかわいい女というイメージが、読む前の読者に植えつけられているところが非常に面白いと思う。

 

訳者あとがきによるところだと、どうやらチャンドラー自身はこの小説を嫌っているようである。何やら執筆環境が良いとは言えなかったらしく、その時の陰鬱な気分が作品に反映してしまっているそうな。(おそらく読むと、随所にそれが感じられる。)

しかしそれが一層、マーロウのシニカルさに磨きをかけていることは、この小説の魅力の一つであると思う。

また物語のキーパーソンとも言えるオファメイについても語らなければいけない。彼女はあまりにも人間的すぎる。化粧っ気がなく、地味な縁なしメガネをかけたいわゆる田舎者の彼女の存在が、冷たく排他的な都会との対比としてでなく、むしろ暗色として物語に深みを持たせることへのこの情緒!小悪魔系な彼女が大好きです。

 

では長いお別れにならないことを